【ラノベ】卒業式から始めよう【書いてみた】

ブログ・ラノベ

ちょっと少女マンガ風のラノベを書いてみたくなったので、ブログに乗っけちゃいます。

てか、卒業式?3月?

…季節感ガン無視でごめんなさい(;’∀’)

…いえ、あの…

これ書き始めたのは確かに3月上旬だったんですけどねw。

んで、書き終わったのは…5月!

そして、現在12月wwwww

季節感ある行事ネタはズレてしまうと、公開するタイミングがビミョーなことになってしまうなぁと実感w。

ま、自分のブログだし、いっかぁ♪と公開させて頂きますね。

主な登場人物

トモカ:高校3年生。同級生のマサキに片思い。卒業式に告白しようと決意する。

マサキ:トモカの同級生。モテモテ男子。トモカの気持ちに気付いていない。

ナナミ:トモカの友達。マサキに恋する美人女子高生。

山 崎:建設作業員。トモカ達が通う学校に仕事で訪れ、事故に遭遇する。

オジサン:カラオケBOX管理人で来店者の世話役案内人。飄々とした性格。

卒業式が終わったら…①週目

「あのさ、マサキ!…ちょっと待って!」

「ん?…トンモ?」

たった今、私たち3年生のの卒業式が終わったばかりだ。

ここは私たちの中学校。

最後の学活に出席する為、教室へ移動中。

階段の踊り場で私はマサキを呼び止めた。

「…あ、あのね…。」

外の校舎外壁工事の音がうるさくて、声がかき消される。

言葉が続かない。どうしよう?

「あ!オレに告るわけ?ここで?おいおいw」

茶化すなよ。こっちは真剣なんだ。本気で言葉が出ない。

「おーい。トモカさーん?もしもーし?どした!?」

踊り場の窓から木漏れ日が、マサキの髪を照らしている。

男子のくせにサラサラで少し茶色い髪。

固まっている私にマサキは少し真面目な顔になって「…トンモ?」と名前を呼んだ。

固まる私に真顔のマサキ。

後ろを歩いてた女子達が、私たち二人を興味津々に眺めている。

「マサキ!あの!…私さ、マサキとさ、つき…」

と、その時。

突然、後ろに居た女子がヒャャャァー!っと悲鳴を上げた。

私は何?

…と思う間もなく、目の前のマサキがキラキラと眩しくて目がくらんでしまった。

光?

結晶?

…とにかく眩しい。

マサキはもう一度「トンモ…」と呼んでくれたような気がしたが、

あっという間に視界から消えた。

眩しくて目を開けていられない。

何かが身体にのしかかる。

痛…いの…かな?

私は力が抜けて目を閉じたら、そのまま身体が何処かへ運ばれた気がした…

異世界召喚!?

…ん?

めちゃくちゃ時間が経ったような気がしたんだけど、違うのかな?

目を開けると、なんか知らない部屋だ。

はい?ここ何処?何?

一面、クリーム色のようなぼんやりした何もない部屋。

寝かされていたベッドから、のろのろと起き上がる。

教室?私の部屋?…じゃない。見たことないや、ここ…

夢の中?

ぼーっとした頭でキョロキョロ周りを見ていたら

「あれ?起きたんかね?」

急に声が後ろから響いたので、私は「ひっ」と小さく悲鳴をもらして振り向いた。

私の目の前になんだか背の低い中年男性 がいる。

「あ、あの…?ここって…」

丸い顔でメガネをかけてて、ちょっと禿げてて白い着物を着ている。マンガみたいだ。

「ここ?いわゆる異世界…じゃなくて入口」

「???」

気を失って、目が覚めたら異世界?いくら流行ってるからって何の冗談?

「オジサン…理解が追い付かない。無理。」

「みんなそう言うから、心配要らん。安心しなさい。自分はここの管理人。」

オジサンが言うには…

異世界、というかここはいわゆる死後の世界に通じるエリアだとか?

一定期間ここで過ごしたら、あの世?へ送るらしい。

「へー。そういうのって本当にあるんだ。マンガやドラマとかでよく聞くけど。」

「なので、貴女も送って差し上げるから心配しないで。」

オジサンは事務的に何の感情もなく私に言う。

「ちょ…ちょっと。送って差し上げるって…?私を?」

「なんか、おかしいことを言ったかね?」

彼は少し不機嫌そうに私をにらんだ。

「だって!私、まだ死んでないけど!さっき卒業式終わったばかりで、マサキに告白しようとして…?」

叫びながら、急に何かを思い出した。

マサキ?

マサキはどうしたんだろう?

木漏れ日が照らしたマサキの髪。「トンモ?」と呼んだ声。

キラキラと白く眩しく消えたマサキ。

「マサキ…マサキ、知らない?オジサン!マサキは?」

「はい?マサキさん?ちょっと待ってて。」

彼は何処に隠し持っていたのか、着物の懐からやけに分厚いノートを取り出し、ペラペラめくる。

「トザワ・マサキさん…。えーと、貴女はナンジョウ・トモカさん?2人共3月✕日、不慮の事故により死亡…予定。」

「事故?」

オジサンは事務的に話した。

卒業式直後、外壁工事の足場が崩れて、積んでいた資材が階段踊り場の窓を突き破り落下。

たまたま踊り場に居た卒業生2名が巻き込まれ死亡。他重軽症者有り。

その2名が私たち?全く意味がわからない。

あのキラキラは光ではなく、割れたガラスの破片だったのか…。

「てか、マサキ死んだの?ここには居ないじゃない?」

「貴女とは別の部屋でお迎え待ち。」

「ちょっと!マサキに会わせて!だって告白しようとしたらさ…。ひどいタイミングなんだけど!」

「不運には同情するけど、会うことは出来んよ。規則だから。」

「なんでよ!1年からずっと同じクラスで、出席番号もずっと隣だったのに!それなのに、たった一言が言えなかったんだよ!アイツ、めちゃ人気あって色んな子から告られてたんだよね…私だって言いたかったんだ!でさ、やっと言えたのに、さ…。なんとかして!」

文句を言いながらワーワー泣いてしまった。鼻の奥がツーンとする。

オジサンはため息をついて言う。

「こんなことを今言っても仕方ないけど、だいたい貴女が階段でマサキさんを呼び止めなければ、事故に遭わずにすんだんだけどねぇ。」

「…え」

じゃあ、私のせい?私があの時踊り場で告白しなければ、2人共死なずに済んだ?

残酷な真実。

そもそも、あの時告白するつもりなんてなかった。

でも。

式典が終わって体育館を出たところで、同じクラスのナナミが私に言ったんだ、あの時。

「今日、マサキに告ってみる!…いいんだよね?トモカ…」

ナナミはモデル並みにキレイな子で憧れている男子が多い。

そんな美人に告白されたら、マサキは何て返事をするのだろう?

嫌だ。嫌だ。考えただけでも辛すぎる。

それなら先に私が告白したっていいよね?

そんな思いでマサキをあの踊り場で呼び止めたんだ。それなのに…。

「私のせいで、マサキ…。せっかく憧れの志望校に推薦で合格して、張り切っていたのに。どうしよう…。」

「気持ちはわかるが、これも運命。受け入れるしかないので、お迎えを静かに待っときな。」

「待っときなって言うけど、こんな何もない部屋でどう待てと?いつまで?」

クリーム色の何もないガランとした部屋。

「若い人はぜいたくだなあ。ほら、これなら文句ないだろ?」

部屋はいきなりカラオケボックスに変化した。

カラオケ機材、テーブル、ソファー、軽食メニュー。ご丁寧にタンバリン、マラカスまで置いてある。

なんだか、平成風のカラオケボックスw。

「…あ?どうやってこれを?ここでも使えるの?」

「標準装備なので問題ないはず。ほら、壁に電話も付いている。」

オジサンの指差した壁にはよくあるインターフォン。

「メニューの注文があれば、ここから電話が出来る。それから…。お迎え10分前に連絡あるから、電話を取るように。」

と、オジサンが言うや否や電話が鳴って、私はビクっとした。

お迎え…?

反射的に電話から遠のいて、オジサンに目配せをする。

「無理無理!お願い!代わりに出て!」

「はあ?仕方無いなあ…。」

オジサンはいやいや電話に出てくれたが

「はい、トモカさんの部屋。…え?何?どういうこと!すぐ行くから!」

と、電話を乱暴に切って部屋から出て行ってしまった。

私たちは死んでいる!?

一人にされてしまって、仕方ないのでソファーに座ってみた。

うん。普通に座れる。

改めてカラオケルーム?を見渡してみる。

本物と全く変わらない。てか、同じ?

ここ、本当にこの世じゃない所なんだろうか?

あのドアから「ドッキリだよ~」とか言って、誰かが飛び出してきそうだ。

あのドアから。

ふと、思い立ってドアに手をかけてみたら、あっさり開いてしまった。

部屋の外は静かな廊下。そっと出てみる。

全く普通のカラオケボックスのお店。

違うのはとにかく静かで人気がない。

他の部屋には誰もいないのだろうか?

何も考えず隣の部屋のドアを開けてみた。

誰か居る。男の人だ。

「…トンモ?」

「マサキ!!!」

なんと、マサキが居る。

オジサンは規則だから会うのは無理!とか言ってたくせに隣の部屋とかw。

「マサキ、ずっとここに…?」

「…みたいだな?連絡あるまでここに居ろって」

「なーんだ。じゃあ私と一緒じゃんw」

こんな状況なのに、マサキと普通に会話出来るのが嬉しかった。

「トンモはどう思う?あの小さいオヤジって、いわゆる “ おくりびと ” ?」

「そんな偉い人にも見えないけどなあ。」

「ところで、トンモ。さっき何か言いかけてた?」

「なにか?」

「ほら、ドサクサに紛れたけど、階段のトコで。」

「…あ。」

そうだった。

なりふり構わず告白しようとしてたんだった。

どうしよう…

続きをここで言うべきかと迷っていたら、部屋のドアが開いてオジサンが入ってくる。

「トモカさん!居ないと思ったら!勝手に出歩かないで下さい!」

「…ごめんなさい。」

「まあ、いいですよ。どっちにしろ、皆で話し合わなきゃいけなくなったので。」

私とマサキは顔を見合わせた。

「皆で…って?」

「あの事故で亡くなったあなた方 “ 3人 ” です。」

オジサンは常に事務的だ。

生きるか、死ぬか…それだけの問題?

それから、私達は別の部屋へ移動した。

その部屋には男性が1人。

40代くらい?痩せた男性で作業着を着ている。

彼はあの外壁工事の現場作業員らしい。

「皆さん、そろいましたね。話し合い、というのが…」

オジサンは淡々と話す。

あの日あの事故で、亡くなったのは3人のはずだった。

しかし、どういうわけか手違いで “ 1人 ” だけと決定になったらしい。

どういう手違いなんだかw

依って、決定は決定なので従わねばならない。

で、そこで亡くなる「誰か」1人と、「生還者」2人を当事者同志で決めてくれとの事。

話し合いで決まらないなら、もう一度あの日に戻るそうだ。

 “ 誰 ” が亡くなるのかはその時に決まるらしい。

「じゃあ、私は一旦席を席を外します。話し合いが済んだらインターフォンをお願いします。」

なんというか、重苦しい空気しかなかった。

皆無言。

無茶苦茶すぎる。

こんなこと、すぐに決められるわけがない。

「あの…」

痩せた男性が口を開いた。

「申し訳ありません…」

彼は山崎さんという建設会社の作業員。

あの日、山崎さんは私達の学校で仕事中だった。

「…3月は激務の連続でした。その為に足場の安全確認を怠ってしまって…完全に私のせいです。そんなワケですから、私1人が死ねば丸く収まります。というか、当然ですよね?若い方が犠牲になることはありません。」

山崎さんは真っすぐな目できっぱりと話す。

私もマサキも何と言っていいのか、わからない。

ふと、テーブルの上に視線を落とした。

1枚の写真だ。

新生児と思われる赤ん坊が写っている。

私はつい聞いてみた。

「この赤ちゃんって…山崎さんの子供さん?」

「はい、娘です。…ですが、病気で1歳を待たずに逝ってしまいました。連日連夜の残業で死に目にも会えませんでしたよ。だからこうして写真をいつも持ち歩いているんです…あの日は…卒業式でしたよね?この子も生きていたら…女子高生になって、こんな卒業式に出席してたのかな?…なんて。」

彼は穏やかな目で私達を見つめる。

「山崎さんの会社ってブラック企業…なんですか?」

マサキが写真を眺めながら思わず聞いていた。

「そう…なんでしょうね。一所懸命に働けば報われると思って、働き続けてきましたが…。所詮私程度の人間は使い捨てなんです。私には大切な家族が居たのに。可愛い娘が居たのに。こんなブラック会社であっても、家族の為に働かなくてはいけなかったけれど、間違っていたのかな…?命を落としたら何もかもがゼロになるんです…。」

彼は柔らかな表情で私とマサキを見つめながら言った

「死ぬことは怖くありませんよ。もしかしたら…娘に会えるかもしれませんしね。あなた方には自分の分まで生きていってほしい。さ、連絡をしましょう。」

山崎さんは自らインターフォンを取った。

リターンとリセットの決意表明

「なん…ですと?本当にそれでいいのですか?」

オジサン、再び登場。

何回見てもマンガのキャラクターみたいだ。

「はい、かまいません。」マサキが代表して答える。

私達は3人共、あの日へ戻ることに決めた。

山崎さんは最後まで大反対だった。

彼の気持ちは痛いほどわかる。

私が、残された奥さんはどうするの?と問うと、黙って静かに目を伏せた。

私達は彼のような大人でもなく、人生経験のない子供だ。

その子供なりの出来る言葉で説得をした。

「ね、奥さんの元に戻りましょうよ…もしかしたら、死なないかもしれないし。」

私とマサキの意見は揺るがなかった。

皆、思うことは程度の差こそあれ同じだ。

大切な人の為に生きる権利も義務もある。

生きること。死ぬこと。

それが運命によって

決められてしまうなら仕方がない。

そう考えるしかなかった。

オジサンはため息をつきながら話す。

「いいですか?あの日に戻ったら、今ここで話したあれこれは全てリセットされます。そして、誰かが亡くなるんです。よろしいですね?」

山崎さんは真っ赤な目で頷いた。

「あの…。」

私はオジサンに尋ねてみた。

「ほんの少し時間をもらえますか?心の準備…というか…」

「はあ…わかりましたよ。」

「ありがとう!」

私はマサキにそっと耳打ちする。

「ね…ちょっと話そう?」

山崎さんは何となく空気を読んで、オジサンと一緒に部屋を後にした。

「なんか、とんでもないことになっちゃったねw」

「こんなこと、誰に言っても信じてもらえねーもんなw」

学校に居たときと全く変わらない会話。

そうだ。

伝えなくちゃ。

マサキに大切なことを伝えないと。

今なら落ち着いて言えそうだ。

「マサキ、話の続きなんだけど…。」

「ん?」

私は大きく深呼吸をし

静かにマサキの目を見た。

「私ね、多分…入学した1年生の時から…マサキのことが…」

「オレ?」

「す、好きだった。今はもっと…好きだと思う。はぁー言った!!」

「…」

今まで見たことのないマサキの顔。

はにかんでる?びっくり?それとも…。

でも、いいや!

私、伝えたんだ!伝えたよ!

「マサキ、聞いてくれてありがとう!これで…あっちの世界に戻っても、もう思い残すことないよ!」

「…トンモ、オレは…」

あ。

ちょっと待って!

いいところで…

卒業式が終わったら…②週目

次の瞬間。

私は最後の学活に出席の為、体育館から教室に向かっていた。

渡り廊下をぼーっと歩いている。

なんか、頭がだるくて仕方がない。

校長先生の話、長すぎるせいかなぁ…。

他の生徒達はキャーキャーはしゃいでたり、グスグス泣いていたり様々だ。

外は今日も校舎外壁の補修工事をしている。

音がけっこううるさい。

「おいっ!モタモタすんな!何度も言わせるんじゃねーよ!遅ぇーんだよっ!」

趣味の悪いスーツを着た男が何やら叫んでる。

ガラ悪〜。

ああいうのをブラック企業っていうのかな?

ついつい立ち止まって見入ってしまった。

と、後ろから誰かが頭をチョンチョンと撫でている。

こんなことするのは一人しかいない。

「ぼーっとすんなよ。さっさと歩け~!」

マサキが後ろから頭を小突いて通り過ぎて行った。

「あ。マサキ…」

結局3年間、伝えられないままになるんだなあ。

マサキ、モテるから私なんか…。

「トモカっ!」

同じクラスのナナミが後ろから追いかけてきた。

「やっと、終わったね〜。校長先生、いつもより長すぎww」

ナナミの笑顔は今日は特別キラキラしている。

「ね、トモカ。私…」

「どうしたん?」

「今日、マサキに告ってみる!」

「え?マサキに?」

「うん。今まで誰にも話したことなかったけど…でも今日卒業式なんだよ!」

私の顔が強ばったけれど、ナナミは気付いていない。

「トモカに聞きたいんだけど…私、マサキに告っても問題ないよね?いいんだよね?トモカ…」

「…いいと…思うよ。」私はそれしか言えなかった。

「それなら良かった!ちょっとマサキ探しに行ってくる!」

気が付いたら、ナナミはもう居なくなっていた。

動揺した。何故だろう?

いつの間にか、私も一目散に渡り廊下を全力で走っていた。


作業現場の学校は卒業式の看板が立てられ、玄関に花が飾られている。

作業員の山崎は足場で作業中だったが、ふと思い立って軽い休憩をしていた。

胸のポケットには亡き娘の写真を忍ばせている。

彼は自分の胸にそっと手を添えた。

あの子が生きていれば、こんな行事にも縁があったのかな?と、行き交う学生たちに目を細める。

スマホにも写真はたくさん有るが、一番気に入ってるのが使い捨てカメラで撮ったこの写真。

生まれて数分後に撮った我が子の写真。

立会い出産で張り切りすぎてしまい、うっかりスマホの充電を忘れてて写真が撮れない!と焦ってしまった。

幸いなことに病院スタッフから使い捨てカメラを貰って、無事に誕生直後の娘を撮ることが出来た。

それから、この写真は毎日持ち歩いてる。

娘が亡くなった後もずっと変わることなく、作業着の胸ポケットの中。

くしゃくしゃ防止のために薄いケースに入れてるが、それも大分くたびれてきた。

新しいものに買い替えないと…。

「おいっ!モタモタすんな!何度も言わせるんじゃねーよ!遅ぇーんだよっ!」

いつの間にか、現場に社長が来ている。口ばかりでうるさい奴だ。

「文句言われる前に動かないと…。ん?」

足場に微々たる違和感を感じたような気がした。

足場の下から社長が何やら喚いている。

「山崎!何止まってる?早く手を動かせって!」

「社長…。足場がどうも緩いような…」

「はあ?お前、今更何言ってる?工期が間に合わなくなるじゃねーか!どうにかしろっ!」

「…わかりました。」

とにかく注意するしかない。騙し騙し歩くしか…。

ここの足場は自分しか使わないけど、一応他の作業員にも伝えておこう。

この会社じゃこんな事はしょっちゅう。

むしろ今まで大事故を起こさなかったのが奇跡的だ。

足下に置いてあった作業工具を取ろうとかかんだ時に、胸ポケットから写真がするっと落ちてしまった。

春のそよ風にふんわりと飛んでゆき

校舎の窓に吸い込まれていった。

「あああ!ちょっ……!」


私はマサキに追い付こうと渡り廊下を全力で走った。

校舎に入り階段を昇って、踊り場に行き着いた時。

足下に何かがヒラリと滑り落ちてきた。

「?」

手に取ると写真だった。

赤ちゃんの写真?なんでこんな所に?

意外な物に気を取られて、マサキのことが頭から離れてしまった。

「あ、え…これ、どうしよう…?」

写真を手に持ったまま、オロオロするしかなかった。

「あの…」

突然頭の上から、誰かの声がする。

「え?」

踊り場の高窓が少し開いており、知らない男性がそこから私に声をかけている。

工事会社の作業員のようだ。

「すみません、こんな所から。あの、貴女が今持っている写真……」

私はさっき拾った写真のことだ、と思い

「これ?赤ちゃんの写真なんですけど…?」

「それです!それです!この窓からじゃ手が届きそうにないな…自分がそっちに行きましょう。すみませんが、そこで待ってて頂けますか?」

「あ、ちょっと…。」

足場のカンカンという足音が遠ざかり、男性は行ってしまったようだ。

どうしよう、こうしている間にも…

マサキ何処だろう…


「マサキ、ちょっとイイかな?」

校舎に入ろうとしたら、誰かに呼ばれてた。

振り返るとナナミが居る。妙に真顔。

「ん?何?」

「…あの、話したいことが…。」

「もうすぐ、学活始まっちまうけど?」

「すぐに済むから…。」

俺とナナミは体育館裏へ歩き出した。

そして、告られた。

なんとなく、そうかなとは思っていた。

ナナミは恥ずかしがって俯いてる。長い睫毛が揺れてキレイだった。

彼女はクラスでも人気のある美人。でも正直あまり気にした事はなかった。

それまでも何人かの女子から告白はされてきたけど、何故かその気になれない。

どうしてだろう?

好きな子がいたわけじゃない。なんでだか、わからない。

でもこの3年間は居心地良くて楽しかったな。この沈黙が全ての答えなんだろうか?

ナナミは耐えきれずに叫んだ。

「ね、マサキ?私じゃあ駄目?もしかして、トモカのこと…」

「は?…トンモ?」

急にヤツの顔が浮かぶ。子犬みたいに人懐っこい顔。

出席番号が3年間、俺の後ろだったヤツの顔。

からかうと面白いし、何より一緒に居て居心地良かった。

それを好きかと言われるとわからない。

「私ね、ずっとマサキのこと見てたから、トモカのことをどう思っているか、何となくわかってる。でもね…私だって負けない位にマサキのこと思ってるんだよ。」

「……うん」

「別に今すぐ、付き合ってとか言わないよ。でもね…嫌いじゃないなら、私のことを…少しでも考えてくれたら嬉しいんだけど…。」

いつの間にか、ナナミは居なくなってた。

ナナミのことは嫌いじゃない。美人だし、性格もいいし。

あんな子と付き合ったら楽しいだろう。

それよりも。

ナナミに言われて初めて、トモカを意識している自分に戸惑っている。

トモカ。

今日は卒業式。

俺もトモカも進学でもうすぐ地元を離れる予定だ。

今日という日が終わってしまったら、次に会えるのはいつになるだろう?

それなら、今出来ることって?

何がなんだかわからないけど、無性にトモカと話したい。

反射的に身体が動いて走りだした。

あいつ、何処?もう教室に戻ったんだろうか?

とにかく探さないと!


「さて、気を付けないと…。」

山崎は足場を慎重に歩いて降りようとした。

飛んでいった写真を、たまたま通りかかった女子生徒が拾ってくれたようだ。

踊り場の高窓から突然声をかけたので、びっくりさせてしまったな。

もしかして卒業生なんかな?

あまり待たせちゃいかんな。早く行かないと…。

「おい!作業進んでんのか?」

あっ、と声が出た。

社長が足場をどかどかと上ってくる。

社長はガサツだ。まずい!あんな歩き方じゃあ…。

「しゃ、社長!そこ!歩かないで下さい!」

「ああ?何言ってんだ!」

その瞬間。

山崎はスロー再生さながら

社長が足下から吸い込まれるのを見た。

え?と、思う間もなく自分の足下も、吸い込まれ身体が落ちて行く。

足場に積んであった資材も滑り落ちて

物凄い音が響く。

窓ガラスの割れる音。

行かないと。

あの女の子に写真を拾ってもらったのに。

写真が…。

早く行って行ってあげないと…。


「まだかなあ…」

写真を持ったまま、動くに動けない私。

ちらっと写真の赤ん坊をじっと見た。

生まれたばかりなのか、顔がくしゃくしゃだ。

ん?

私って…前にもこの写真見たっけ?

奇妙な既視感にとらわれたが、それが何なのかわからない。

「トンモ!遅ぇーぞっ!」

声のする方に顔を向けたら、マサキが居た。

「マサキ?」と声にしようとした瞬間…

きらきら光る結晶?

…が辺り一面に降り注ぐ。

ほんの一瞬だが、キレイだなと思った。

と、同時に私は何故だか反射的に叫んでいた。

「来ちゃダメーっ!!!」

写真を持つ手が固くなる。

マサキがビクッとしてその場で固まった。

そうよ!ここに来ないで。

でも、何が起こったんだろう?

さっきから奇妙な既視感。

これでいいんだよね?間に合ったんだよね?

私の身体は吹っ飛ばされたけど、不思議と痛くなかった。

うっすら目を開けると、頭から血を流しているマサキが真っ青な顔で私を見ている。

マサキ…無事だったの…?

私の頭は混乱しているんだろうか。

過去?

現在?

未来?

ひどく眠い。

目を閉じたら楽に…なれる…かな…

さよなら…そして、おかえりなさい

卒業式当日の事故は、テレビでニュースにもなって、てんやわんやだった。

重軽傷者数名、死亡1名。

私は奇跡的にかすり傷程度で助かった。

マサキも頭に切り傷を負ったが軽傷で済んだ。

数日後、体調も良くなったので、用事の為外出をしていたら、

「トンモ!」と、私を呼ぶ誰かの声。

「マサキ?」

「今、トンモのお見舞いにでも行こうかと思って。」とか、言ってる。

マサキも頭の傷はすっかり良くなって元気そうだ。

「丁度良かった!ちょっと、付き合って!」

マサキはきょとんとしてたが

「まーいっか!」と付き合ってくれた。


行き先は病院。

“ 山崎 ” と書かれた、表札の病室に入ると、患者の男性と付き添いの女性が居る。

最初、怪訝な表情だった二人は、私がくしゃくしゃの写真を差し出すと、たちまち涙目になった。

あの大騒ぎのさなか、とっさに写真をポケットに突っ込んだのが幸いだった。

写真はくしゃくしゃになってしまったので、私は「ごめんなさい」と謝った。

写真ケースに至ってはボロボロになってしまったので、似たものに買い替えたのを伝えると「本当に…ありがとう」と泣いてくれた。

あの赤ん坊の写真の持ち主である、作業員の男性。

大怪我で入院したが後遺症もなく回復に向かっている、とニュースで聞いた。

この男性に会って、預かったままの写真をなんとかして返したかった。

学校を通じて名前と入院先を調べてもらったので、ここまで来ることが出来たのだ。

ふたりは一緒になって、これでもかと頭を下げてくれた。

付き添いの女性は奥さん。

写真を預けたせいで事故に巻き込んでしまい申し訳ない、と何度も何度も謝罪を繰り返した。

「確かに怖い思いはしたけれど、こうやって無事にまた会えたし…いいじゃないですか? 」

私とマサキはにっこりと伝えた。

山崎さんは写真をしっかりと握りしめながら

「ありがとう。本当に嬉しい。実は…写真のこの子はこの世にはいないんです。でもね…また帰ってきてくれたんですよ…」

と言って奥さんのお腹をそっと撫でている。

私もマサキもただただ、びっくりして涙目になった。

そして、笑顔で応えた。

生きているって素晴らしい!

心からそう思った。


お見舞いの帰り道。

そろそろ暗くなりそうだ。

3月下旬とはいえ、夕方はひんやりする。

なんとなく無言が続いたが、マサキから話しかけてきた。

「写真、返すことが出来て良かったな?」

「一緒に行ってくれてありがとうね。正直一人だとちょっと…ね。」

両親に心配をかけたくなかったので同行を断ったけど、やっぱり心細かったのだ。

マサキが居てくれて嬉しかった。

「あっ!もともと、私のお見舞いに行くとこだったっけ?サンキュ!」

「こんだけ元気なら、お見舞い要らなかったな?」

マサキはポケットから小さな袋を出しかけたが、仕舞おうとした。

「えー!せっかくだから貰ってあげるって!」

って、ちゃっかりゲット。

袋にはチョコレートが入ってた。

「もうすぐ、お互いに離れちゃうね?」

「ああ…」

マサキも私も県外へ進学。

新幹線で1時間ほど離れた距離で、それぞれの新生活が待っている。

「離れても寂しがるなよ?オレだってちょっと寂し…いワケないし!」

「へーwその割には目が笑ってないw」

マサキは本当にわかりやすい性格だ。

寂しいと思ってくれている。それだけで私は充分。

マサキは笑ってない目で私を見ながら言う。

「オレ…ナナミから付合ってほしいって言われたけど。」

「…え?そうなんだ?」

あえて知らなかったふりをした。

これから先は聞きたいような、聞きたくないような…

「モテるじゃん!ナナミは可愛いし性格もいいからね。良かったじゃん!で?」

「で?」

「付き合うんでしょ?ナナミは地元での進学だもんね…遠距離になるね。頑張れー。」

マサキは話したくなさそうなので、こっちから聞いてやった。

チクショー。

「もったいないけど、断った…。」

「はあああ!?なんで?」

ナナミが振られるとか想定外だった。

「別にナナミのこと嫌いとかじゃないんでしょ?とりあえず付き合ってみたらいいんじゃない?あの子はいい子なんだよ…。」

「トモカ」

名前を呼ばれて私は少しビクッとした。

「とりあえずって何?オレ、そういうの無理。いい子だったら…なおさら出来ない。」

マサキの言うことはもっともだけど、ナナミの気持ちもわかるだけに何と言っていいやら…。

「オレはてっきりトンモから告られるかと思ったけどw」

「はああ?私にだって選ぶ権利はある!」

「じゃあ、選べ、今すぐw」

「…え?」

なんだろう?

あの日からの奇妙な既視感?

もしかしたら…

今なら言えるのかな?

私達が歩く道にひんやりした薄暮が降りてきた。

3月下旬の夕暮れは冷たいのに暖かかった。

奇跡の向こう側

「さて、今回の業務は終了。あの娘、私を “ オジサン ” なんて呼んでたなー。自分、ここじゃあヒヨッコみたいなもんだけど…。」

彼は禿げた頭を撫でながら苦笑いする。

そして分厚いノートに何やら記帳して、いつものように着物の懐に仕舞った。

「それよりも…」

隣の部屋で待っている、あの男。

あっちの世界では “しゃちょー  ” とか呼ばれていたらしいが…

「ああ?おいっこらっ!ワシをこんな所に閉じ込めやがって!オメーら何処の組だ?こっから出せや?ああ?」

とか、なんとか、喚いている。

ガラが悪すぎw。

これじゃあ当分お迎えは来ないだろう。

彼は懐に仕舞ったノートをもう一度取り出した。

「あの日、あの時間、あの場所の死者は1人。色々番狂わせで “ しゃちょー  ” さんにヒットしたのは、私のせいじゃないもんねw知らんもんねw。」

“ オジサン ” は修正テープの上に、「死ぬ人:しゃちょー(仮名)」と書かれた文字を見ながら、そっとノートを閉じた。

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