いいかげんに死んでみたい

人生・体験談

自分、ビビりでチキンだ。すぐにメソメソして「あーもう駄目死にたい」と毎日落ち込んでいる。

誰にも言えず、悶々としながら家事をこなし仕事に出かけ疲れて眠る、の無限ループだ。原因は色々。

生き方も色々なら、死に方だって色々なはず。重たい話題で申し訳ないが聞いて頂きたい。

suicide (自死)は罪なのか?

20年くらい前、ニュージーランド滞在中に地元の映画館で北野武監督の「HANA-BI」を見た時のことだ。

たまたま入った映画館にて上映中だったので、いい機会と思いチケットを購入した。あの当時日本円でチケット1枚800円前後だったと思う。

平日で客の入りは3割程度だった。「HANA-BI」はバイオレント要素と同時にシリアス・コミカルシーンもあり、皆結構食い入るように見てたと思う。

【 YouTube 】Joe Hisaishi Official チャンネルより 

Joe Hisaishi – HANA-BI
ジブリの映画音楽でもお馴染みの久石譲。 「HANA-BI」 を美しく彩るピアノがただただ切ない。

(以下ネタバレ有・NGの方は飛ばして下さい)

劇中、監督自身のイラストが要所要所に散りばめられており、視覚的にも見所があった。しかし、ある一枚のイラストで劇場の空気が一瞬にして凍ったのには驚いた。何故に?

各イラストにはキーワードとも取れる言葉が載せてあり、解釈はそれぞれに委ねるということだろうか。問題のイラストはほのぼのした雪景色に真っ赤な転がる文字で「自決」、字幕は「suicide」となっていた。

観客達は本気で困惑し、何も見てませんよという異様な空気になった。日本人ならまず有り得ないリアクションなので、日本人である自分も困惑するしかなかった。

映画が終了したあと、どうして 「suicide」 が困惑されるのか目を背けられるのか、考えてみたが分からなかった。

時は流れて、アラフィフとなった今ならぼんやり理解しつつある。

いつの時代も圧倒的に男性が多い。令和2年(2020年)は11年ぶりに増加傾向。

ニュージーランドは欧米系であり、欧米系はクリスチャンが多い人種。キリスト教徒にとって「suicide」 は我々日本人が思う以上にタブーであるということだ。

日本には時代劇等で「切腹」「ハラキリ」シーンが普通にあるので 「suicide」 には耐性があるようだ。でも、それはお芝居の中にある非日常世界。決して日常茶飯事ではない。

それでも 「suicide」を泣く泣く選んだ人達は自分の知り合いには何人かいる。 いずれも男性で年代は40代~50代。性格は皆バラバラだったし、共通点?とかは有るような無いような…。

思い出すことは今まで殆どなかったが、冥福を祈る意味でここに書き留めておこう。

以下、重い内容なので辛いと思われたら、そっと飛ばして頂きたい。設定を考慮し所々フェイクを入れてあるので矛盾があればご容赦頂きたい。

死を選ぶ人たち【Ⅰ本 くん 】

1人目Ⅰ本君は高校時代の同級生。1~2年と同じクラスだったが、ほとんど話したことはなかった。自分の友人(Ⅿ子)の友人という位置付けで普通に顔見知り。彼も自分に対しては同様だったと思う。

Ⅰ本君はよく見たらイケメンだったが、真面目な顔して滑りそうなことを言う人、という印象だった。仲間内ではまあまあ人気者だった。

卒業後、しばらくして自分は地元を離れたが、Ⅿ子を通じて「皆で飲み会したよー」「Ⅰ本君結婚したんだってー」とかの風の便りで、その後の彼の消息は何となく知っていた。

Ⅿ子はⅠ本君とは結構気が合うのか、ちょくちょく話題に乗せてきた。男性としてというより、お兄ちゃん的な存在だったように思う。恋愛相談もしてたようだ。

時は流れて40代半ばのある日。そのⅠ本君の訃報を知らせてくれたのもⅯ子だ。お互いに主婦になってからはメールでの連絡がほとんどだったが、この日は直接電話をかけてきた。

受話器を取るといきなりの嗚咽だったので、最初は間違い電話と思ったくらいだ。「…Ⅰ本君…が。Ⅰ…本君死ん…じゃったー!」普段冷静なⅯ子なのにひどい取り乱し様だった。

こっちも寝耳に水で混乱するばかり。自分は「なんで?」と言うのが精一杯だった。ようやく落着きを取り戻したⅯ子が言うには、Ⅰ本君は自死。発見された時はすでに手遅れだったらしい。

イケメンで真面目だけど面白かったⅠ本君。いったい何が?Ⅿ子が知る限りでは、転職を繰り返し色々悩んでたらしい。真面目な性格故、誰にも相談出来なかったんだろうか?家族は奥さんと小さい息子さんの3人家族。

自分はⅠ本君とはただの顔見知りで親しくはなかったけど、あの時代同じ場所で過ごした級友なのでショックは少なからず有る。仲良かったⅯ子は計り知れないだろう。

死を選ぶ人たち【 F田さん 】

二人目は昔のバイト先の先輩のF田さん。当時自分は30代後半。F田さん50歳前後でバツイチ独身。アニメ好きで少しオタっぽかったと思う。年齢的に正社員かと思ったが、自分と同じアルバイト。

1973年放映「山ねずみ ロッキーチャック」
F田さんのケータイの待ち受け画像だった。

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それでもF田さんは県内でも有数の進学高校出身で、頭のいい人ではあったが協調性があまり無かった。プライドも無駄に高く自分の思い通りにならないことがあると、突然機嫌が悪くなってしまう。

そんなF田さんが恋をした。お相手はバイト先に来る生保レディの女の子。生保営業って毎日じゃないけど、定期的に企業をコンスタントに回るので、こちらも何となく顔見知りになってくる。

その生保の子は20代、お人形みたいに可愛らしく性格のいい子。男性陣からは絶大な人気を誇り、皆から「ナナちゃん」と呼ばれていた。

ある日のことだ。たまたまF田さんと会社の書庫で整理作業していた時、唐突に「ねえ。…ナナちゃんって子供を産めない身体なのかなあ?」と自分に直球質問を投げてきた。

「F田さん、あの…それはどういう…?」あんまりな質問内容に自分は口をあんぐりと開けたまま絶句した。

彼が言うには。営業で来た時、いつも自分「だけ」に優しく接してくれるから、きっと告白を待っているに違いない!だからナナちゃんに交際を申し込もう!しかし「ごめんなさい」と断られてしまった!どうして?

…いや、普通に考えて自分の倍近くトシの離れた男性ってお父さんみたいなもんだ。しかもF田さん、失礼だが女性ウケするタイプでもないし。ナナちゃんがF田さんに向ける優しさは営業用なんだよ…。

彼のマシンガントークは続く。自分の告白を断ったのは、ナナちゃんはきっと男性と付き合えない理由がある!子供が産めないんだ!ああ可哀そうに!きっとそうに違いない!

もの凄い発想変換に頭がクラクラした自分はやっとの思いで言葉を返した。

「あのね、F田さん…。いくら相手が私でもね、女性に聞いて良いことと悪いことがありますよ!ちょっと失礼過ぎやしませんか?私はナナちゃんの個人的なことは全く知らないし、知っていたとしてもF田さんに教える義理はありませんよ!」

ちょっと言い過ぎたらしい。F田さんはみるみるうちに涙を浮かべて、書庫の窓辺にもたれながら、よよよと泣き崩れてしまった。自分は気分が悪くなり飛び出すように書庫から出て行った。

それから数日後、F田さんが亡くなる。自宅の駐車場で練炭だかガスかなんかを使って自ら絶ってしまったようだ。亡くなる数日前から行動が怪しかったと皆口を揃えた。心が病んでたので仕方ない、と…。

自分は自分で書庫での会話を思い起こし、毎日がたまらなく苦しかった。もしかしたら自分がキツい言い方をしたせい?じゃああの時どう返せば良かったのか?今現在でもわからない。

会社の人事課から、一応関係者として自分の他数人が事情を聴かれた。ナナちゃんも生保の上司と一緒に会社訪問して面談をした様だ。彼女は悪くないのでウチの会社も同情気味。ナナちゃんは目を真っ赤にして帰って行った。

それからあっという間にF田さんの49日も過ぎ、彼は過去の人になっていた。自分も落ち着いて出勤できるようになった。

季節は真夏。また例の書庫で整理作業をしていたが、特になんとも思わなかった。ここにはエアコンがないので窓を開放して作業していた。汗が大量に流れて暑い暑い。

窓のむこうは住宅地に隣接しているので、犬の鳴き声・車のエンジン・室外機の轟音といった生活音が筒抜けである。

そして何処からか赤ん坊のような泣き声が聞こえてきた。結構近いなーと思ったらピタリと止んだ。ふと窓の外を覗いてみたが誰もいない。へ?隣接する住宅地を見てあれれ?と思った。

真夏なのでどの家も窓を閉め切ってエアコンを使ってる。てことは何処かの家で赤ん坊が泣いてても、泣き声は室外機にかき消されるし、聞こえたとしてもほんのわずかだろう。

間近で聞こえたのはおかしい。こんな炎天下に赤子を連れての散歩とかもあり得ない。なんで?なんで?の嵐が吹き荒れた。

そして自分が今いる場所に気が付いて、ひっっと情けない声をあげた。この窓辺でF田さんがもたれて泣き崩れてたのを思い出したのだ。自分は汗にまみれた顔を抑えて、あの日と同じように転がりながら書庫を飛び出した。

F田さん、もう一度泣きにやってきたのか…?成仏して下さい!御冥福をお祈りしますから!と手を合わせるしかなかった。

後日談。ナナちゃんは生保レディを引退したそうだ。違う職種に転職しました、彼氏も出来ましたよ☆と街角でばったり会った時に教えてくれた。元気そうで良かった。本当に良かった。

死を選ぶ人たち【 T彦さん 】

3人目はT彦さんといって、血縁はないが夫の親戚筋にあたる家のご長男で、ウチらとほぼ同世代。県外に在住していたが、エリアが近かったので程々に親戚付合いをしていた。

T彦さんは真面目を絵に書いたような人だった。実直で勤勉さが買われ、勤務先では会計監査?けっこう責任ある業務を任されていた。しいて欠点を挙げるなら、生真面目故少しガンコなところだった。

ある日のこと。T彦さんの御両親が「息子が無断欠勤を続けている、自宅にも帰ってない、何か知りませんか?」とウチに訪ねてきた。奥さんは後ろの方で小さくなっていた。

ここ2ヶ月前位から帰宅時間が遅くなり、とうとう3日前から勤務先にも出勤してないそうだ。全く心当たりがないので、何か分かったら連絡しますねと御三方に伝えた。

御両親は心当たりは全て回ったので明日捜索願を出すとのこと。で、ウチらは「あのマジメな人がねえ」「カケオチか?」「記憶喪失になったとか」と好き勝手な推測をしていた。

それから数日後、奥さんから「亡くなりました」と力ない声で連絡があった。T彦さん、我が家を訪ねた翌日に帰宅したらしいが、その晩自宅の納戸で自ら…とのこと。救急搬送されて一命は取り留めたけど、容態が急変したそうだ。

通夜に出席しても、あまりの急展開に自分ら夫婦は現実感がなく戸惑うばかりだった。同世代だし勿論悲しい気持ちはあるが、とにかく気持ちがついていけなかった。T彦さん、何があったんだ?としか…。

それから49日法要も済んだ頃、いろんな情報が田舎ネットワークを通じて舞い込んできた。勤務先で横領がバレて逃亡してただの、ギャンブルで借金が膨れ上がっただの、キャバクラ嬢に貢いでいたとか…ありとあらゆる噂が流れてくる。

奥さんからは「仕事上のことで色々ストレスが溜まってました」と説明はあったが何とも歯切れが悪かった。

おそらくT彦さんの親から余計なことを言わないように、と口止めされてるんだろう。我が家を訪問した日、奥さんは何一つ喋らせてもらってなかったし。

噂のほとんどがガセネタと思うが、何処かに真実もあるかもしれない。聞いた話によると、T彦さんは小さい頃から本当に真面目で親に逆らったりとか無かったらしい。

高校大学は父親の母校、勤務先も父親絡みの縁故入社、奥さんも父親知人の紹介…と田舎クオリティならではのラインアップだ。

誤解が有るといけないので付け加えるが、この田舎クオリティで悠々と生活している人は意外と多い。そして皆普通に幸せに暮らしている。

つまり田舎都会に関わらず一定数の割合で、中年になってからハジけてしまう人はどうしても出てくるようだ。大人になってからかかる熱病は文字通り「死に至る病」に等しい。

だからといって若い時にヤンチャをすればいいというものではないが。T彦さんはその熱病に抗えず負けてしまったのだ。同世代としてその辺は同情するが…。

残されたご家族はその後どうなったかは詳しく聞いてないが、皆元気でいてほしいと陰ながらお祈りする。

「適当」に「いいかげん」に生きて死んで行こう

上記の紹介させてもらった故人達は、良く言えば「真面目」「几帳面」、悪く言えば「四角四面」「偏りすぎ」だ。人間、何処かにハンドルでいう所の「遊び」の部分がないと消耗が激しくなってしまう。

最近、好きなYouTuberに「シークエンスはやとも」さんという若手芸人がいる。彼はオカルト系・スピリチュアル系のネタが芸風だが、語り口がなんとも優しい。

彼の動画で「適当とは…適度に当分すること。人間にはこのバランス感覚が大切。」という解説を聞いて、若いのにいいこと言うなあと目から鱗が飛んで行った。

「適当」は日本語としてあまり良いイメージがないので、もっと評価されるべきだ。同様にタイトルにも使った「いいかげん」もイメージアップしてほしい。漢字だと「良い加減」なのに気の毒だ。

今の日本人に一番欠けてる要素とも言える適度なバランス感覚。「真面目」「几帳面」 ばかりを押し付けないでほしい。その結果。疲弊した人達を生み、失うだけだ。

特別に裕福で豪奢な生活は要らない(少しは欲しいかもw)。適当に生きて、いい加減に死んで行ける世の中になる様、心から切に願う。

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